MEMORANDUM

ファンド法務NEWS第4回―ソーシャルレンディングにおける「匿名化・複数化」問題―④金融庁のノーアクションレター制度の回答の内容はどのようなものか?

こんにちは。弁護士の後藤慎吾です。

前回、ソーシャルレンディングにおける「匿名化・複数化」の運用がもたらした問題についてご説明しましたが、今回は、それに対する金融当局などの対応について順を追って見ていきたいと思います。

規制改革実施計画(平成30年6月15日 閣議決定)

政府は、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革を推進することを目的として、毎年6月に規制改革実施計画を策定しています。規制改革実施計画は、規制改革推進会議(経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方について総合的に調査審議する内閣総理大臣の諮問機関)の審議の結果をとりまとめた答申をもとに策定されるのですが、当該会議が立ち上げた投資等ワーキング・グループにおいて「クラウドファンディングに係る規制改革」が審議され、その議題の論点の一つとしてソーシャルレンディングにおける匿名化・複数化の問題が取り上げられ、当該運用について批判的な意見が多く出されました(第16回投資等ワーキング・グループ議事概要(平成30年2月27日))。出席者の発言のいくつかを引用してみましょう。

貸金業法の関係で、投資家に対して、ファンド化あるいは匿名化することが求められます。これは、投資家とに貸金業との関係を切断をするため、「投資家が貸付けの実行判断を行っていない」ということを担保するためだと思いますが、その手段としてファンド、匿名化するということでございます。ただ、匿名化すると投資家から見ると何に投資しているのか分からない、誰を守りたいのかよく分からないという矛盾した状況になってしまうということでございます。

新経済連盟事務局 小木曽稔政策統括の発言(第16回投資等ワーキング・グループ議事概要(平成30年2月27日)13頁)

融資型クラウドファンディングというのは、要するに、ローンに投資する証券化商品だと思うのです。ところが、それが社債とか、その他の形をとったときには非常に厳しい開示の規制を課されるのにも関わらず、この形をとると、逆に投資家に対して、何に投資しているのかを教えてはいけないというルールになるのは、合理的には全く理解できないと思うので、そこの違いがなぜ正当化できるのか、是非金融庁には考えていただきたいと思います。

大崎貞和専門委員の発言(第16回投資等ワーキング・グループ議事概要(平成30年2月27日)27頁)

大崎氏の発言は正鵠を射たものですが、「貸付け」と「社債」との関係を違う例でいえば、私がある会社に複数回資金提供する場合でも、それを金銭消費貸借契約に基づいて貸付ける方法によれば、私は「貸金業を営む者」に該当することになり貸金業法で規制される「業者」になりますが、私がその会社から社債(満期になれば社債金額は弁済されますし、利息の支払いもなされる負債性の有価証券(金商法第2条第1項第5号)です。)を購入するのであれば、私は金商法で保護の対象となる「投資者」になるわけです。このことに違和感を覚えるのは私だけではないはずです。

さて、規制改革推進会議は、上記のような議論を踏まえ、「規制改革推進に関する第3次答申~来るべき新時代へ~」(平成30年6月4日)において、「投資家に個別の貸金業登録を不要とするため従来の考慮の一要素とされてきた匿名化・複数化と並存する運用上の新たな方策」を検討すると定め、それを踏まえ同月15日に閣議決定された規制改革実施計画では「クラウドファンディングに係る規制改革」として以下の内容が盛り込まれまれ、平成30年度中に措置するものとされました。

融資型クラウドファンディング(貸付型クラウドファンディング、P2Pレンディング、 ソーシャルレンディングとも呼ばれる。)に関して、借り手の匿名化・複数化が必須ではないことを前提として、提供される金融サービスの果たす機能に即し、融資型クラウドファンディングのプラットフォームを運営する事業者、投資家、登録行政庁などの関係者の意見も聴取しつつ、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)上の投資家保護と貸金業法 (昭和58年法律第32号)上の借り手保護を図る観点を踏まえ、投資家に個別の貸金業登録を不要とするため従来の考慮の一要素とされてきた匿名化・複数化と並存する運用上の新たな方策を、借り手の属性なども含めて検討する。その際、実態として貸金業法上の具体的な懸念が発生していないとの指摘もあったことから、同法上の考慮が必要となる場合をできるだけ明確化し、適切な方法で公表する。

証券取引等監視委員会の金融庁長官等への建議

証券取引等監視委員会は、金融庁設置法第6条第1項に基づいて設置された合議制の機関であり、監視事務(市場分析審査、証券検査、取引調査、開示検査及び犯則調査)やそれに基づく勧告などの事務を行っていますが、そのほかに、同法第21条(下記参照)に基づいて金融庁長官等に対して法規制の見直し等の施策について建議を行う権限を有しています。

(建議)
第二十一条 委員会は、証券取引検査等の結果に基づき、必要があると認めるときは、金融商品取引の公正を確保するため、又は投資者の保護その他の公益を確保するために必要と認められる施策について内閣総理大臣、長官又は財務大臣に建議することができる。

証券取引等監視委員会は、平成30年12月7日に、金融庁設置法第21条の規定に基づき、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、ソーシャルレンディングの匿名化・複数化の運用に関して以下の建議を行いました(「貸付型ファンドの投資家への情報提供についての建議」(平成30年12月7日))。

貸付型ファンドの投資家への情報提供について

 金銭の貸付けを出資対象事業とする集団投資スキーム持分(以下「貸付型ファンド」という。)を販売する業者に対する検査において、
・ 資金使途等についての虚偽表示
・ 貸付先、担保等についての誤解表示
・ 貸付先がファンドからの借入れを返済することが困難な財務の状況にあることを認識しながら募集を継続
など、多数の金融商品取引法違反事例や投資者被害が生じている悪質な事例が認められた。

 これらの事例が生じた背景には、貸付型ファンドを販売する業者の法令等遵守態勢が不十分であったことに加え、貸付型ファンドの投資家(資金の出し手)に対し、貸付先(資金の借り手)に関する情報が十分に提供されていないこともある。当該情報は、投資家が出資金の回収可能性を判断する上で重要な情報であるものの、貸金業登録に係る制度の運用上との関係から、現状では貸付先の特定につながる情報の明示を控えた運用となっている。

(注)投資家の貸金業登録の要否を判断する上で、借り手を特定することができる情報が明示されないこと(匿名化)と、複数の借り手に対して資金を供給するスキームであること(複数化)が考慮の一要素とされている。

 したがって、こうした投資家への情報提供の状況に鑑みれば、貸付型ファンドに係る投資者保護の一層の徹底を図る観点から、投資家がより適切な投資判断を行うための情報提供や説明内容の拡充などの適切な措置を講ずる必要がある。

 (参考)「規制改革実施計画」(平成30年6月15日閣議決定)においても、「匿名化・複数化」と併存する運用上の新たな方策の検討等が掲げられている。

なお、証券取引等監視委員会の金融庁長官等への建議は下記の表のように頻繁に行われているものではなく、上記の建議は平成26年に行われた建議以来のものでした。ちなみに、平成26年の建議は、適格機関投資家等特例業務の特例の見直しに係る平成27年金商法改正に結び付いた「適格機関投資家等特例業務に関する特例についての建議」(平成26年4月18日)です。

引用:証券取引等監視委員会ウェブサイト

投資家保護か借り手保護か

匿名化・複数化の問題は、規制改革実施計画が指摘する「金融商品取引法(昭和23年法律第25号)上の投資家保護と貸金業法 (昭和58年法律第32号)上の借り手保護」のバランスをどのように図るか、という問題に行き着きます。

法律の目的(言い換えればその法律がどのような手段によって何を守ろう(実現しよう)としているのか)を端的に知るにはその第1条を見てみましょう。

金商法第1条は以下のように規定しています。

(目的)
第一条 この法律は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め、金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により、有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、有価証券の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もつて国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする。

他方で、貸金業法第1条は以下のように規定しています。

(目的)
第一条 この法律は、貸金業が我が国の経済社会において果たす役割にかんがみ、貸金業を営む者について登録制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うとともに、貸金業者の組織する団体を認可する制度を設け、その適正な活動を促進するほか、指定信用情報機関の制度を設けることにより、貸金業を営む者の業務の適正な運営の確保及び資金需要者等の利益の保護を図るとともに、国民経済の適切な運営に資することを目的とする。

このように、金商法は「投資者」を保護するといい、貸金業法は「資金需要者」を保護するといっているわけですが、ソーシャルレンディングにおけるTK+ローンスキームでは、「投資者」である資金提供者と「資金需要者」である資金の借り手がファンド運営業者(ソーシャルレンディング業者)を間に挟むことで全体として一つの取引関係の当事者となることから、両者の保護の要請が衝突することになります。投資者保護を確保するための重要な手段の一つとして投資者への投資判断に必要な情報の開示があるのですが、匿名化・複数化の運用は、資金提供者に対して資金の借り手を特定する情報を開示しないことを求めた点で「資金需要者」の保護を優先させ、「投資者」の保護を後退させたといえるでしょう。金融当局は、その利益衡量を貸金業法第2条第1項の「資金の貸付け」という用語の解釈論の中で行ったといえます。民法の条文の解釈などではその傾向が顕著ですが、法解釈は、法律の規定の文言を舞台にして対立する利益の調整を行い、適切な結論を得るためのロジックともいえるわけです。

金融庁のノーアクションレター制度の回答

このような経緯を経て、金融庁は、平成31年3月18日に、ノーアクションレター制度の回答という形で以下の見解を示し、資金提供者が貸金業の登録を行わずにソーシャルレンディングに参加できる匿名化・複数化の運用以外の運用を新たに認めました(金融庁監督局総務課金融会社室長「金融庁における法令適用事前確認手続(回答書)」(平成31年3月18日)。

融資型クラウドファンディング(貸付型クラウドファンディング、ソーシャルレンディングとも呼ばれる。)については、資金の出し手(投資者)に係る貸金業登録の判断は、①特定の借り手への貸付けに必要な資金を供給し、②貸付けの実行判断を行っている場合には、貸付行為を行っているものと評価(貸金業登録が必要)するが、上記判断の一要素として、借り手を特定することができる情報が明示されていないこと(匿名化)、複数の借り手に対して資金を供給するスキームであること(複数化)がなされているかも考慮するとしてきた。しかしながら、事業者が、以下の匿名化・複数化以外の方策により、借り手が法人である融資型クラウドファンディングを行う場合には、投資者は、貸付けの実行判断を行っていないものと考える。
(1)事業スキーム
商法(明治32年法律第48号)第535条に規定する匿名組合契約によるものであり、資金の出し手(投資者)は、貸付け業務を執行することができず、貸付け行為に関し、権利及び義務を有していないこと。
(2)ファンド事業者(貸付実行者)
貸付約款等において、ファンド事業者(貸付実行者)自らが、貸付金額、貸付金利、資金使途等の貸付条件を設定のうえ借り手に提示し、借り手と投資者 とが貸付けに関する接触をしない旨や当該接触をさせないことを担保するための措置が明記されていること。
ファンド事業者(貸付実行者)は、貸金業法第24条の6の12第2項に規定する社内規則に、借り手と投資者とが貸付けに関する接触をさせないことを担保す るための措置を規定していること。
(3)ファンド販売業者
匿名組合約款等において、投資者は、貸付け業務を執行することができず、貸付け行為に関し、権利及び義務を有していないこと、また、投資者と借り手 とが貸付けに関する接触をしない旨や当該接触をさせないことを担保するための措置が明記されていること。
ファンド販売業者は、投資者に対し、借り手も投資者との貸付けに関する接触が禁じられていることを説明していること。

なお、上記の方策にかかわらず、投資者と借り手が貸付けに関する接触をした場合には、当該投資者は貸付行為を行っているものと評価され貸金業法違反とな るおそれがあることに留意する必要があるものと考える。

上記の金融庁のノーアクションレター制度の回答(以下「本回答」といいます。)は、匿名化・複数化の運用自体を放棄したわけではなく、それと併存する運用を認めたわけですが、ソーシャルレンディングにおける資金の借り手の保護はなお必要であるとの前提に立って、様々な要件を課しています。各要件について見ていきましょう。

(1)資金の借り手が法人であること

本回答で示されている運用(以下「非匿名化・複数化の運用」といいます。)は、資金の借り手が法人であることを要件としています。

一般の方からしてみると、貸金業者といえば消費者金融業者を思い浮かべるのかもしれませんが、貸金業法が規制の対象とする貸付行為には、借入人が個人である場合だけでなく法人である場合も含みます。ここで、借り手が個人の場合に非匿名化・複数化の運用を(事実上)認めないとしたのは、借り手が個人の場合の方が借り手保護の要請がより強い(その分投資者保護の要請が後退する)との金融当局の利益衡量の結果なのだろうと思います。

(2)出資契約が匿名組合契約であること

①資金提供者とファンド運営業者との間で締結する契約の類型として匿名組合契約を採用し、②その契約の中で、投資者(資金提供者)は、貸付け業務を執行することができず、また、貸付け行為に関し、権利及び義務を有していないことを明記するべきことが要件とされています。

ファンド法務NEWS第2回―ソーシャルレンディングにおける「匿名化・複数化」問題―②ソーシャルレンディングの匿名化・複数化の運用とは何か?」でご説明した、(i)匿名組合の事業は営業者単独の事業であり、(ii)匿名組合員の出資は営業者の財産になるという、匿名組合員は「金は出すけど口は出さない」という匿名組合契約の建付けを前提に、(i)資金提供者(匿名組合員)は、ファンド内部の関係として、貸付条件に関する交渉や回収行為を含む貸付業務に関与する権限を有するものでなく、また、(ii)資金提供者が資金の借り手との間で直接の法的関係(資金提供者が資金の借り手に対して貸金弁済請求権などの権利を有する関係)に立たないことを法的に担保することで、以下の(3)「ファンド事業者(貸付実行者)が貸付条件を設定・提示すること」及び(4)「資金提供者と資金の借り手を接触させないこと」の2つの要件を法的に基礎づけようとしたものと考えられます。日本における組合としては、匿名組合のほかに民法組合・有限責任事業組合・投資事業有限責任組合がありますが、後者の3類型においては、組合事業は組合員の共同事業であるとされており、また組合財産は総組合員の共有になることから、ソーシャルレンディングにおいてこれらの類型を採用すれば、資金提供者と資金の借り手とが接触する法的な根拠を与えてしまうことから、それを嫌ったものと推測されます。

(3)ファンド事業者(貸付実行者)が貸付条件を設定・提示することが貸付約款等において明記されていること

ファンド事業者(貸付実行者)自らが、貸付金額、貸付金利、資金使途等の「貸付条件を設定」したうえで「借り手に提示」することが貸付約款等において明記されていることが要件になっています。

「融資型クラウドファンディング(・・・)については、・・・貸付けの実行判断を行っている場合には、貸付行為を行っているものと評価(貸金業登録が必要)する」(本回答冒頭部分参照)という資金提供者貸金業登録リスクに関する金融当局の判断基準に記載のある「貸付けの実行判断」を分析してみると、①借入人の資産状況や収支等の審査、②貸付条件の交渉・決定及び③融資実行の最終的な判断ということになるものと思いますが、ファンド事業者による「貸付条件の設定」が非匿名化・複数化の運用の要件となったのを逆からみれば、資金提供者の方では「貸付けの実行判断」の構成部分である②の「貸付条件の交渉・決定」に関与しないことを担保することで資金提供者が「貸付けの実行判断」を行っていないと評価するのだ、とある種の割り切りをしたといえます。ソーシャルレンディングにおいては、一般的に、資金提供者に対して、各案件の貸付金額、予想利回り、資金使途等が予め開示され、各資金提供者はそれを踏まえて出資判断を行うことから、各資金提供者は③の「融資実行の最終的な判断」を実質的に行っていると評価でき、だからこそ、これまで「匿名化・複数化の運用」を行うことでその判断を抽象化しようとしたのですが、今般の非匿名化・複数化の運用では、資金の借り手保護の他の方策を講じることを前提として、資金提供者は③の「融資実行の最終的な判断」を行ってもよいのだということを正面から認めたと評価できるのではないかと思います。

他方で、ファンド事業者自らが借り手に「貸付条件を提示」することを要件としたのは、次の(4)「資金提供者と資金の借り手を接触させないこと」の、貸付条件の交渉の場面における現れといるでしょう。

(4)資金提供者と資金の借り手とを接触させないこと

非匿名化・複数化の運用において様々な要件を課すことで最も実現したいのは「資金提供者と資金の借り手を接触させないこと」にあるといえます。その目的を達するために、①貸付約款等及び匿名組合約款等において、投資者と借り手とが貸付けに関する接触をしない旨や当該接触をさせないことを担保するための措置が明記されていること、②ファンド事業者(貸付実行者)は、貸金業法第24条の6の12第2項に規定する社内規則に、借り手と投資者とが貸付けに関する接触をさせないことを担保するための措置を規定していること、③ファンド販売業者は、投資者に対し、借り手も投資者との貸付けに関する接触が禁じられていることを説明していることの3つが要件とされています。

貸金業法の目的の一つに資金需要者の保護があるとご説明しました。貸金業法はその保護の方法として様々なものを規定していますが、ソーシャルレンディングにおけるTK+ローンスキームでは、資金の借り手に対して実際に貸付けを行うソーシャルレンディング業者(ソーシャルレンディング業者が私募の取扱いを行う場合にはファンド事業者)は貸金業の登録を受けて貸金業法の規律の下に貸付業務を行うことから、その限りで貸金業法で実現しようとする資金需要者の保護は果たされているといえます。そこで、上記の規制改革実施計画においても「その際、実態として貸金業法上の具体的な懸念が発生していないとの指摘もあったことから、同法上の考慮が必要となる場合をできるだけ明確化し、適切な方法で公表する。」とされている通り、非匿名化・複数化の運用の下で、資金提供者が貸金業法の規律の下に置かれないとすることで、資金需要者の保護にとってどのような脅威が考えられるかが問題となります。これについて、金融当局は、非匿名化・複数化の運用によって、資金提供者が資金の借り手を特定できるようになることから、例えば、資金の借り手が借入債務についてデフォルトした場合に資金提供者が資金の借り手に対して直接取立て行為を行う事態を想定し、それを防ごうとしたものと考えられます。つまり、資金の借り手の保護の一方策として貸金業者の取立行為の規制に関する貸金業法第21条(下記参照)が規定されていますが、資金提供者との関係でこれを実効あらしめるため「資金提供者と資金の借り手を接触させない」ための要件をある種くどいほどに課したわけです。

(取立て行為の規制)
第二十一条 貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
一 正当な理由がないのに、社会通念に照らし不適当と認められる時間帯として内閣府令で定める時間帯に、債務者等に電話をかけ、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の居宅を訪問すること。
・・・

さいごに(雑感)

本回答によって、ソーシャルレンディング業界が匿名化・複数化の呪縛から逃れることができるようになったため、実務的には歓迎するべき進展だと思っています。ただ、弁護士として個別の事案についてアドバイスするとすれば、当然のことながら、本回答に従ってスキームを構成するべきだと助言するわけですが、個人的に本回答で示された法解釈について違和感を持っているのも事実です。以下では、そのうち2点をあげておきます。

(1)罪刑法定主義との関係

一つは、貸金業法第2条第1項の「金銭の貸付け」という法律上の用語をここまで詳細な要件を設けて解釈することができるのかという疑問です。貸金業法を所管する官庁は金融庁ですが、貸金業の無登録営業は行政処分の対象ではなく、刑事罰の対象ですので、最終的には裁判所が貸金業の無登録営業(構成要件該当性)の有無を判断することになります。ノンアクションレター制度の回答には必ず「本回答は、もとより、捜査機関の判断や罰則の適用を含めた司法判断を拘束しうるものではありません。」との記載があり、本回答が取り扱う問題は特にそのことが妥当します。それでは、ソーシャルレンディングにおいて資金提供者が貸金業の無登録営業を行ったとして起訴された場合に、裁判所は金融庁の上記の基準を持ち出して判断するのでしょうか?例えば、本回答で示された要件の一つでも具備しない場合に、資金提供者は金銭の貸付けを行ったといえるのでしょうか?おそらく、裁判所は、この基準によって貸金業の無登録営業の有無を判断することはないだろうと推測します。刑罰法規の名宛人は一般人であり、罪刑法定主義の見地からも、法解釈は一般人に理解可能な日常的語義の範囲内になければならない(平川宗信「刑罰法規の解釈」(刑法判例百選Ⅰ総論[第五版](2003年))4頁)ものと考えられており、一般人が「金銭の貸付け」という言葉から上述のような要件を読み取ることはおよそ不可能だからです。その意味で、ソーシャルレンディングにおける資金提供者貸金業登録リスクの問題は、本来は、ノンアクションレター制度での回答という形ではなく、貸金業法の改正という正攻法によって解決するべき問題だと思います。ちなみに、過去にも、グループ会社間貸付に関する貸金業登録リスクの問題について、ノンアクションレター制度での回答による対処を経て、最終的には立法で解決された経緯がありました。今回の問題も同様の道程をたどるのかもしれません。

(2)接触→貸付行為?

もう一つの疑問は本回答の「上記の方策にかかわらず、投資者と借り手が貸付けに関する接触をした場合には、当該投資者は貸付行為を行っているものと評価され貸金業法違反となるおそれがある」という記載についてです。わざわざ最後にこのような記載がなされているのは、資金提供者が資金の借り手に接触することを防ぐための威嚇効果を狙ってのことと思います。しかし、例えば、ファンド運営業者から資金の借り手に対して貸付けが行われた時点で、資金提供者が資金の借り手に対して貸付けに関して接触する意思を有していないような場合には、当該時点では、当該資金提供者は貸付行為を行っていると評価される余地はないはずですが、資金提供者が後に資金の借り手に貸付けに関して接触する意思を生じて実際に接触した場合(資金の貸付け後に当該資金の借り手がデフォルトになった場合など、実際にあるとしたらこの場合ではないかと思います。)には、ファンド運営業者が行った過去の貸付けについて、遡って資金提供者が行ったものとして評価されるのでしょうか?無登録での貸付けという犯罪事実があったか否かは実行行為である貸付行為の時点で判断されるべきものであり、その後の資金提供者と資金の借り手との接触という後発的な事象を捉えて遡及的に犯罪事実の有無を評価するのは無理があるのではないかと思います。

先日(令和元年5月23日)に、第二種金融商品取引業協会が「貸付型ファンドに関するQ&A」を公表しました。そこで、次回は第二種金融商品取引業協会の「貸付型ファンドに関するQ&A」の概要と留意点は何か?を取り上げて「ソーシャルレンディングにおける「匿名化・複数化」問題」の連載を終えたいと思います。

関連記事一覧