MEMORANDUM

ファンド法務NEWS第3回―ソーシャルレンディングにおける「匿名化・複数化」問題―③匿名化・複数化がもたらした問題点はどのようなものか?

こんにちは。弁護士の後藤慎吾です。

今回のMEMOはソーシャルレンディングにおける「匿名化・複数化」問題の第3回「匿名化・複数化がもたらした問題点はどのようなものか?」についてです。

匿名化・複数化(おさらい)

前回のMEMO「ソーシャルレンディングの匿名化・複数化の運用とは何か?」でご説明したところですが、簡単に、ソーシャルレンディングにおける資金の借り手の匿名化・複数化の運用についておさらいをしておきましょう。

金融当局は、ソーシャルレンディングにおいて採用されるスキームが資金提供者貸金業登録リスクをクリアできるものであるかという問題について、実務レベル(業者への行政指導の場面)において以下の考え方を示していました(規制改革推進会議・第16回投資等ワーキング・グループ(平成30年2月27日)資料1-8(金融庁・御説明資料(融資型クラウドファンディングについて)(平成30年2月27日))。

実務運用上、投資家が貸付行為を行わない事業スキームか否かについて、実質的に判断。
その際、借り手の匿名化・複数化(※)がなされているかも考慮の一要素となり得る。
(※)借り手の匿名化・複数化(以下の両者を満たす場合)
・借り手を特定することができる情報が明示されないこと(匿名化)
・複数の借り手に対して資金を供給するスキームであること(複数化)

その結果、以下のイメージ図のように、ファンド運営業者が案件を告知するウェブサイト上で、資金の借り手が資金提供者に特定されないようにA社・B社と仮の名称で表示されるなど具体的な会社名や所在地等が示されず(匿名化)、かつ、ファンド運営業者は資金提供者から出資を受けた資金を必ず複数の借り手に対して貸し付ける(複数化)運用が行われてきました。

 

多発するソーシャルレンディング業者に対する行政処分事例

匿名化・複数化については、特に匿名化の要請により、投資者(資金提供者)への資金の借り手に関する情報提供が限定的になり、投資者保護の観点から問題があるのではないか、と指摘されてきました。

その批判を裏付けるように、近年、ソーシャルレンディング業者に対する行政処分が相次ぐことになります。以下の表は、平成29年以降の関東財務局管内のソーシャルレンディング業者への行政処分事例を示したものです。この間(平成29年1月1日から本MEMOを公開した令和元年5月24日まで)、関東財務局管内の金融商品取引業者(第1種業、第2種業、投資運用業、投資助言・代理業のすべてを含む。)に対する行政処分は26件ありましたが、そのうちでソーシャルレンディング業者に対する行政処分が9件を占めるという異常な事態になっています。なお、以下に記載する問題点は関東財務局の公表文を私の方で編集したものです。年月日の箇所に関東財務局の該当ページのリンクを貼っていますので、全文を確認されたい方は適宜ご参照ください。

年月日/業名/行政処分 問題点(抜粋)

H29.3.30

㈱みんなのクレジット

業務停止命令・業務改善命令

(1) 金融商品取引契約の締結又は勧誘において重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為
ア 貸付先について誤解を生ぜしめるべき表示をする行為
・当社は、当社ウェブサイトを通じて、ファンドの出資持分の取得勧誘を行い、その出資金により貸付事業を行っているが、その親会社及びその関係会社(当社と併せて、以下「当社グループ」という。)への貸付けを予定していたにもかかわらず、ウェブサイトにおいて、ファンドが複数の不動産事業会社等に対し貸付けを予定しているかのような表示をし、貸倒れリスクが分散されているかのような誤解を与える表示を行った
・当社の親会社は、ファンドから借り入れた資金の返済について、不動産事業等による収益から返済する旨をウェブサイトに記載しているが、実際には、他の償還期限が到来していないファンドの資金を充当しているものも認められた
イ  担保について誤解を生ぜしめるべき表示をする行為
・当社は、取得勧誘を行ったファンドについて、契約締結前交付書面において、原則として貸付先から不動産若しくは有価証券の担保を受け入れ、返済が滞った場合には、担保権の実行により貸付金の回収を図る旨を表示しているが、実際は、貸付先のほとんどが当社グループであり、設定された担保の大半が当社の親会社の発行する未公開株式となっており、中には担保が設定されていない貸付けも存在した
(2) 当社の業務運営について投資者保護上問題が認められる状況

ア ファンドの償還資金に他のファンド出資金が充当されている状況
・当社が取得勧誘を行ったファンドで既に償還されたもの17本のうち10本について、他の償還期限が到来していないファンドの資金が償還金に充当されていた
イ 当社のキャンペーンにファンド出資金が充当されている状況
・当社はキャッシュバックキャンペーンにおいて顧客に現金を還元しているが、当社の親会社へ貸し付けたファンド出資金が当社に還流して充当されていた
ウ 当社の代表取締役がファンド出資金を自身の借入れ返済等に使用している状況
・当社の代表取締役は、当社がその親会社に貸し付けたファンド出資金について自身の預金口座及び自身の債権者に送金させた
エ 当社グループの増資にファンド出資金が充当されている状況
・ファンド出資金が当社グループ内で貸付け、借入れが繰り返された後に当社グループの一部の会社の増資に充当された
オ ファンドからの借入れを返済することが困難な財務の状況
・平成28年11月末時点における当社グループ全体の財務状況について、短期借入金の総額が流動資産を大きく上回っている状況となっていることから、ファンドからの当社グループへの貸付けは返済が滞る可能性が高い

H29.6.9

日本クラウド証券㈱

業務改善命令

○ 著しく事実に相違する表示又は著しく人を誤認させるような表示のある広告をする行為
ア 不動産開発事業に対して融資を行う広告
・当社は、平成28年1月から同年7月までの間、匿名組合の出資持分の募集の取扱いを行った一部において、当社関係会社が関与する不動産開発事業に対する融資に関してウェブサイトに広告を掲載しているが、その中の当該不動産開発事業のリスク説明として「プロジェクトの継続が困難になった場合」と題した図を掲載し、当該匿名組合の融資したメザニンローンは、あたかも当該匿名組合とは別の出資者(事業者)の「エクイティ」によって毀損しない旨の表示をしている。しかし、実際には、当該匿名組合の融資先である事業会社が当該匿名組合からの融資金を充当して行った不動産を取得するSPCへの匿名組合出資を除くと、当該SPCの「エクイティ」に相当するものは55万円しかない状況であった
イ 営業者報酬等の還元をうたった広告
・当社は、平成26年5月から同27年5月までの間、募集の取扱いを行った一部において、「営業者報酬の一部を皆さまに還元することで、特別目標利回り6.5%でご提供いたします。」などとうたって、ウェブサイトに広告を掲載しているが、顧客に対して手数料等の還元を一切行っていない

H29.6.13

㈱FIPパートナーズ

業務改善命令

(1)出資金の回収可能性について把握・対応していない状況
ア 甲社の貸付事業について
・当社は、自らを営業者とする匿名組合の出資持分の取得勧誘を行い、出資金全額を韓国の金融業者(当社が議決権の40%を出資する会社。以下「甲社」という。)に対して貸し付けているが、甲社の利息受領額及び貸付額を確認するにとどまり、貸付金の使途や利息の原資等について精査をしていないことから、甲社が貸付先に対して追加で貸付けを行った資金が利息の原資に充てられている可能性があることを見過ごしていた
イ 甲社が貸付先から徴求した担保の実態について
・当社は、甲社が貸付先から徴求している担保につき、甲社から提出される報告資料において、3年以上にわたり、担保評価額が記載されていない状況が継続しているにもかかわらず、その理由を甲社に確認していない。また、当社は、甲社に対して、主な担保物である動産担保の鑑定評価に係る算出方法等の調査・確認を行っていないほか、鑑定評価の内容に疑義が認められる状況を見過ごしている
ウ 貸付先の財務状況について
・当社は、遅くとも平成26年6月には、甲社がその貸付先の財務状況等について確認していないことを把握していたにもかかわらず、甲社が当該貸付先から財務諸表等を入手していない状況を改善させていない
(2)甲社に対する監査が不十分な状況
・当社は、甲社の業務に係る財務内容等の監査において、甲社の貸付事業の実態等に対する検証を行っていないため、甲社と貸付先との間で締結した貸付契約書や、甲社と貸付先との資金授受の状況等に係る当社の確認は不十分なものとなっている

H.29.10.20

㈱FIPパートナーズ

登録取消し・業務改善命令

〇 業務改善命令に違反している状況等
(1)当社は、平成29年6月13日付け業務改善命令により、当社の貸付先である韓国所在の金融業者の業務運営状況の把握や金融商品取引業を適切に行うための経営管理態勢及び業務運営態勢の整備等を命じられているが、当該業務改善命令を履行していない
(2)当社は、業務改善命令を受けた以降、当社役職員のほとんどが退職した結果、代表取締役のほかに営業員1名、事務員1名を残すのみであり、コンプライアンス担当者すら不在の状況であることから、金融商品取引業を適確に遂行することができる体制とは認められない

H30.3.2

ラッキーバンク・インベストメント㈱

業務改善命令

〇 金融商品取引契約の締結又はその勧誘に関して、重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為
(1) 貸付先の審査につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為

・当社は、ウェブサイト上で公表している取引約款等において、貸付事業に係る貸付先の選定に関し、「借入人から借入れの申し込みがなされた場合には、あらかじめ当社が定める内規に従い審査を行い、当社が適当と判断する申込みについて、ファンドの募集手続に付す。」旨を、また、広告サイトにおいて、「当社は、借入申込者の信用力を厳密に評価します。提出書類(決算書・事業計画書・収支計画書など)に基づき融資の可否を判断します。」旨を表示しているが、貸付先(当社の代表取締役の親族が経営する会社であり、当社と当該貸付先は密接な関係の中業務を行っている。以下「X社」という。)より提出された財務諸表において、売却契約の締結に至っていない物件を売上に計上するなどして、純利益や純資産が水増しされているにもかかわらず、これを看過していたほか、X社が手掛ける複数の不動産事業について事業期間が延長となる事態が発生し、この間、X社は売却資金を得られず、平成29年3月以降に償還期日を迎えるファンドに係る借入金の返済が困難な状況となっていることを認識したにもかかわらず、その後もX社を貸付対象先とするファンドの募集を継続した
(2) 担保物件の評価につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為
・当社は、X社が保有する不動産に担保を設定して、X社への貸付けを行っているファンド318本のうち252本について、「不動産価格調査報告書」を当社ウェブサイト上の募集要領に掲載しているが、当該報告書は、正式な不動産鑑定評価を行った上で作成されたものではなく、対外的に公表できない不動産価格をウェブサイト上に掲載し、ファンド出資持分の募集を行った

H30.7.13

maneoマーケット㈱

業務改善命令

(1)ファンドの取得勧誘に関し、虚偽の表示をした行為
・当社は、G社を営業者とするファンドの取得勧誘において、ファンド毎に特定された再生可能エネルギー事業の開発資金等にファンド資金を支出する旨を表示しており、G社は調達した資金を主にG社の親会社であるK社の関係会社を経由してK社に貸し付け、K社が各種事業等に投融資を行っている。しかし、K社においては、ファンドから貸し付けられた資金及び自己の固有の事業に係る資金について、区分管理することなく、ほぼ全ての資金を1つの口座で入出金している状態となっており、かつ、出資対象事業と異なる事業等へ支出している事例が多数認められた。当社は、この間において取得勧誘を行ったファンドのウェブサイト上の資金使途の表示と実際の資金使途が同一となっているかについて確認せず、事実と異なる表示のまま取得勧誘を継続した
(2)当社の管理上の問題点
・上記(1)の状況が看過されてきた原因は、当社においては、法令上、虚偽表示等の禁止行為が規定されているにもかかわらず、ファンド資金の使途等の確認をK社の関係会社に一任し、K社における資金管理の実態や資金の使途を把握できる管理態勢を構築していないことによるものと認められる

H30.12.14

エーアイトラスト㈱

業務停止命令・業務改善命令

○ ファンドの取得勧誘に関し、虚偽の表示をする行為
(1) 債権担保付ローンファンドについて
・当社は、ファンドの取得勧誘に際し、当社ウェブサイト上の当該ファンドに係る募集ページにおいて、出資金の貸付先が関与するプロジェクト等に関し、本プロジェクトは、官公庁等が関与して行う原発事故被災地の水資源の安全向上を目的として実施される除染事業であること等の表示をしていたが、該当する官公庁等が関与して行う除染事業は存在せず、このため、出資金の貸付先に対しては、上記の取得勧誘時の表示のような、官公庁等が関与して行う除染事業の存在及び実行を前提とした資金使途のための貸付けは当初から行われていない
(2) 動産担保付ローンファンドについて
・当社は、ファンドの取得勧誘に際し、当社ウェブサイト上の当該ファンドに係る募集ページにおいて、出資金の貸付先が関与する事業や返済原資等に関し、当該貸付先は、長距離無線通信に係る商用サービス開始に先立つ実証実験の終了後に、全国に多数の拠点を持つ大手企業との業務・資本提携を予定しており、それにより安定的な収益源を確保する計画であること等の表示をしていたが、実際には当該大手企業との業務提携等の予定は存在せず、このため、当該貸付先に対しては、当初から、上記の取得勧誘時の表示のような、当該大手企業との業務提携や、当該業務提携に係る事業による収益が返済原資となることなどを前提とした貸付けは行われていない

H31.3.8

エーアイトラスト㈱

登録取消し・業務改善命令

(1)ファンドの取得勧誘に関し、虚偽の表示をする行為
○ 高速道路事業を貸付対象事業とするファンドについて
・当社は、ファンドの取得勧誘に際し、当社ウェブサイト上の募集ページにおいて、出資金の貸付先が関与する事業、資金使途及び返済原資等に関し、当該貸付先は元請負会社を経由して、国土交通省等を発注者とする高速道路関係の工事を受注していること等の表示をしていたが、当該工事について、元請負会社を経由して当該貸付先が発注を受けた事実はなく、このため、当該貸付先に対しては、上記の取得勧誘時の表示のような、高速道路関係の工事受注を前提とした資金使途のための貸付けは当初から行われていない
○ 公共事業に係るコンサルティング業務を貸付対象事業とするファンドについて
・当社は、ファンドの取得勧誘に際し、当社ウェブサイト上の募集ページにおいて、出資金の貸付先が関与する事業、資金使途及び返済原資等に関し、当該貸付先は、依頼元事業者が進める複数の公共事業プロジェクトを対象として、リソースやスケジュール面での課題を解決すること等により事業全体の最適化を支援すること等の表示をしていたが、貸付先が実際に支援の対象とする公共事業プロジェクトは存在せず、当該貸付先に対しては、上記の取得勧誘時の表示のような、公共事業プロジェクトに対するコンサルティング業務等の実施を前提とした資金使途のための貸付けは当初から行われていない
(2)ファンドの取得勧誘に関し、重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為
・当社は、ファンドの取得勧誘に際し、当社ウェブサイト上の募集ページにおいて、出資金の貸付先が関与する事業、資金使途及び返済原資等に関し、公共事業における重機や資材運搬等で必要となる燃料について、当該貸付先において調達と配給の集約を行うこと、初年度売上30億円をボトムラインとして継続成長が計画されている売上規模となること、返済原資は、本燃料卸売事業による収益であること等を表示していたが、本事業に係る初年度売上は何ら根拠の無いものであり、工事の実施状況等にかかわらず、最低でも30億円の売上が予定されているかのような誤解を生ぜしめるべき表示となっている
(3)当社の管理上の問題点及びファンド資金が流出している状況
・当社は、ファンド資金の資金使途とされる事業の実態を十分確認することなく、ウェブサイト上に資金使途や返済原資等を具体的に表示し、取得勧誘を行っていた
・当社は、各ファンドについて貸付実行後のモニタリング等を行っておらず、貸付金がウェブサイトに表示した資金使途どおりに使用されているかについて十分な確認を行っていなかった。その結果、平成29年2月から同30年11月までの募集総額約52億円(既に運用が終了しているものを除く。)のうち、少なくとも約15億8千万円が、各ファンドの案件紹介等に中心的な役割を果たしていた当社の取締役(平成30年10月当社取締役就任)が実質的に支配する法人に流出していた
・上記の状況が看過されてきた原因は、当社においては、法令上、虚偽表示等の禁止行為が規定されているにもかかわらず、事業実態や貸付先におけるファンド資金の使途等を把握するための管理態勢を構築していないことによるものと認められる

H31.3.14

ラッキーバンク・インベストメント㈱

登録取消し・業務改善命令

〇 業務改善命令に違反している状況
・当社は、ファンドの出資持分の取得勧誘を行った匿名組合員からの出資金を充てて行った貸付けに係る債務者であるX社及びY社が、平成30年5月、貸付債権の全額(元本合計約50億円。以下「本件貸付債権」という。)につき債務不履行に陥った時期以降、両社に対し、本件貸付債権を被担保債権とする担保不動産(以下「本件担保不動産」という。)の任意売却の進捗状況を定期的に確認するだけで、本件貸付債権の回収に向けたそれ以上の取組みを行っていない
・当社は、本件担保不動産の大半において、貸付先による任意売却が一向に進んでいない状況を認識しながら、同年10月になって、初めて本件担保不動産の競売見込価額の評価を行っているところ、当該評価に係る手法については、共同担保物件に関し、土地及び建物を対象とする収益評価額が、更地を対象とする更地評価額を常に上回っており、建物独自の価値が認められる状況において、建物価値を考慮する収益評価額と建物価値を考慮しない更地評価額とを単純平均している点で、適切さを欠いているのみならず、その結果(約20億円)についても、合理的な根拠なく、ファンドの出資持分の取得勧誘時の「調査価格」を著しく下回っているなど、当社による本件担保不動産の競売見込価額の評価は、著しく杜撰なものとなっている
・当社は、同年12月になって、本件貸付債権を第三者に16億円で譲渡したが(以下、当該債権譲渡を「本件債権譲渡」という。)、当社の代表取締役は、本件担保不動産の買受けを検討していたZ社から、同年11月22日、本件貸付債権の買受けの申出(以下「本件買受申出」という。)があったことを認識していたが、Z社への買受金額の提示依頼等も行っておらず、また、本件買受申出の存在を認識していた他の役職員においても、本件債権譲渡の実行に際し、Z社から16億円を超える買受金額の提示がある可能性も検討していない
・当社は、本件貸付債権に係る出資者に相当する匿名組合員(投資者)の利益の最大化に向けて、本件貸付債権の保全・回収に関し、金融商品取引業者として誠実かつ公正に業務を遂行する義務(営業者としての匿名組合契約約款に基づく善管注意義務)を負担していたものと認められるところ、上記の当社の対応は、投資者保護を図る上で極めて不適切であり、当社に対する「投資者保護に万全の措置を講ずること」などの平成30年3月2日付業務改善命令を履行したものとは認められない
〇 不適切な業務運営の状況
・上記業務改善命令の適切な履行の観点から、当社は、本件貸付債権の保全・回収の適正性について、投資者保護を考慮した検討・判断を行うべきであったところ、投資者への償還原資となる本件担保不動産の価値を適切に評価しないまま、杜撰な手続きで債権譲渡を実行しており、当社の業務運営態勢には、投資者保護に関して重大な問題が認められる

行政処分事例の検討

(1) 前提知識の整理

上記の行政処分事例を検討すると、表示行為との関係での法令違反を理由に行政処分が発出された事例が多いことがわかります(事例①、②、⑤、⑥、⑦、⑧の9件中6件)。

表示行為との関係では、金商法第38条第9号に基づく業府令第117条第1項第2号(下記参照)において「虚偽表示」及び「誤解表示」が禁止されています。

(禁止行為)
第三十八条 金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、第四号から第六号までに掲げる行為にあつては、投資者の保護に欠け、取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるおそれのないものとして内閣府令で定めるものを除く。
一 金融商品取引契約の締結又はその勧誘に関して、顧客に対し虚偽のことを告げる行為
・・・
九 前各号に掲げるもののほか、投資者の保護に欠け、若しくは取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるものとして内閣府令で定める行為

(禁止行為)
第百十七条 法第三十八条第九号に規定する内閣府令で定める行為は、次に掲げる行為とする。
・・・
二 金融商品取引契約の締結又はその勧誘に関して、虚偽の表示をし、又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為
・・・

ちなみに、金商法第38条第1号は、上記の通り、「金融商品取引契約の締結又はその勧誘に関して、顧客に対し虚偽のことを告げる行為」(一般に「虚偽告知」といわれます。)を禁じていますが、上記の行政処分では、この「虚偽告知」は認定されておらず、業府令第117条第1項第2号の「虚偽表示」が認定されています。「虚偽告知」と「虚偽表示」の違いの一つとして、前者は特定の顧客に対するものに限定されるが、後者は不特定の顧客に対して行うことも含まれるとされている点があります(神田他編「金融商品取引法コンメンタール2」(商事法務)302頁)。ソーシャルレンディング業者が行うウェブサイト上での案件の告知は不特定の資金提供者に対して行われることから、「虚偽告知」には該当せず「虚偽表示」の該当可能性を検討するべき事案であると考えられます。

また、事例⑥、⑦、⑧において「虚偽表示」が、事例①、⑤、⑧において「誤解表示」が認定されています。「虚偽表示」とは、真実と異なる表示をする行為であり、故意(表示内容が真実と異なることの主観的認識)が前提になるのに対して、「誤解表示」は、投資者の投資判断にとって重要な影響を与える事項について表現があいまいで、ある意味では真実であるが、通常の人が受け取った場合には、他の意味に解しやすい表示をいい、過失の場合(誤解表示であることの認識はないが注意を尽くせばそれを知りえた場合)も含むとされています(上記神田他302~303頁)。このように、一般的に、虚偽表示の方が誤解表示よりも悪質性が高いといえます。

また、事例②は広告規制における「誇大広告」の禁止に関する金商法第37条第2項(下記参照)に違反するとされた事例です。

(広告等の規制)
第三十七条 ・・・
2 金融商品取引業者等は、その行う金融商品取引業に関して広告その他これに類似するものとして内閣府令で定める行為をするときは、金融商品取引行為を行うことによる利益の見込みその他内閣府令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。

なお、「誇大広告」の禁止と「虚偽表示」・「誤解表示」の禁止の関係ですが、「虚偽告知」や「誇大広告」に該当しない不当な表示行為を捕捉するために「虚偽表示」・「誤解表示」が禁止の対象とされたものであり(平成19年パブコメ回答381頁参照)、また、「誇大広告」の要件となっている「著しく」という文言が「虚偽表示」・「誤解表示」にはないことからも明らかなように、「虚偽表示」・「誤解表示」は「誇大広告」を包摂したより広い概念であると考えられます。

(2) 行政処分の背景事情

前提知識の整理はこのくらいにして、以下では、ソーシャルレンディング業者に集中して行政処分が発出された理由について考えてみたいと思います。

当然のことながらソーシャルレンディング業者のすべてが行政処分を受けているわけではなく、処分を受けたソーシャルレンディング業者の経営陣や担当者のコンプライアンス意識の欠如や利益優先の企業風土といった個別的な事情が大きく寄与しているのだろうと推測されるわけですが(また、ソーシャルレンディング業者の多くはベンチャー企業であり、そもそも自らが厳格な規制の対象となる金融機関なのだという認識に乏しかったのではないかとも思います。)、ここでは構造的な問題にフォーカスして3点述べておきます。

(i) 匿名化の運用

まず、最初に考えられる要因としてはこれまでご説明してきた匿名化の運用が考えられます。
具体例を挙げてみてみましょう。事例①の㈱みんなのクレジットに対する行政処分の公表文では、以下のように指摘されています。

 当社は、平成28年4月から、法人向けローンを出資対象事業とする「不動産ローンファンド」や「中小企業支援ローンファンド」等と称するファンドの出資持分の取得勧誘を行っている。
当社の貸付先は、そのほとんどが当社の親会社である株式会社甲(以下「甲」という。)及びその関係会社(当社、甲及びその関係会社を合わせて以下「甲グループ」という。)となっており、貸付先が甲グループに集中している状況となっている。
当社は、貸付先の審査の段階から、甲グループへの貸付けを予定していたにもかかわらず、ウェブサイトにおいて、ファンドが複数の不動産事業会社等に対し貸付けを予定しているかのような表示をし、貸倒れリスクが分散されているかのような誤解を与える表示を行った上で、顧客に対し、出資持分の取得勧誘を行っていた。

この事例では、そもそも匿名化という運用がなく、ファンド運営業者が資金提供者に対して資金の借り手を特定できる情報の開示を行っていれば、このような誤解表示という事態は生じえなかったということができます。

また、匿名化の運用が直接的に虚偽表示や誤解表示を導いたとはいえない事案においても、匿名化の運用によってソーシャルレンディング業者が資金提供者に対して資金の借り手の属性という投資判断を行ううえで最も重要な情報を開示する必要がない(むしろ開示してはならない)という事業環境の下で、当該業者の一部において証券取引における投資者への情報開示の重要性に関する意識が次第に鈍磨していったことが、当該業者に対して行政処分が多発した一因であるように考えられます。

(ii) 金商法の投資運用業に関する行為規制の適用がないこと

2つ目の要因としては、ソーシャルレンディングが事業型ファンドに該当し、出資金の運用の場面(つまり貸付け及び回収の場面)では金商法の投資運用業に関する行為規制の適用がない点が挙げられます。すなわち、ファンドの出資対象事業(出資金の運用方法)が「主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資」に該当する場合には、その投資運用は「金融商品取引業」のなかで「投資運用業」に該当し(金商法第28条第4項第3号)、当該業務を行うに当たっては金商法の投資運用業に関する行為規制に従わなければならないわけですが(例えば業法上の忠実義務や善管注意義務、禁止行為、分別管理義務、運用報告書交付義務など)、ソーシャルレンディングにおけるファンドの出資対象事業は資金の借り手への貸付事業であり、「主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資」に該当しないことから、かかる行為規制の適用はないと考えられます。②以外のすべての事例でソーシャルレンディング業者の貸付け及び回収行為の問題点が指摘されていますが、これらの業務との関係で投資者保護の観点からの直接的な法規制が存しないこと(に伴う業者の規範意識の低下)が、このような行政処分事例が続出した一因なのではないかと考えられます。

なお、この点について事例⑨の行政処分の公表文は以下のような興味深い指摘をしています。

当社は、本件貸付債権に係る出資者に相当する匿名組合員(投資者)の利益の最大化に向けて、本件貸付債権の保全・回収に関し、金融商品取引業者として誠実かつ公正に業務を遂行する義務(営業者としての匿名組合契約約款に基づく善管注意義務)を負担していたものと認められるところ、上記1)から3)までに記載した当社の対応は、投資者保護を図る上で極めて不適切であり、「投資者保護に万全の措置を講ずること」などの本件業務改善命令を履行したものとは認められない。

金商法第36条第1項は以下のように規定して金融商品取引業者の顧客に対する誠実公正義務を定めていますが、かかる義務が貸付債権の保全・回収の場面においても作用する、つまり、この場面も金商法の規律の下に置かれているのだとしています。誠実公正義務は、金融商品取引業者の行為規制の間隙を埋める役割を果たすものと考えられてきたわけですが(拙著152頁)、今回の関東財務局のこの点の解釈はその真骨頂といえるのかもしれません。いずれファンド法務Q&Aで深掘りして検討しようと思います。

(顧客に対する誠実義務)
第三十六条 金融商品取引業者等並びにその役員及び使用人は、顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない。
・・・

(iii) ソーシャルレンディング市場の拡大

また、3つ目の要因として、ソーシャルレンディング市場の飛躍的な伸びが考えられます(以下の資料を参照)。

引用:株式会社矢野経済研究所・プレスリリース「2017年度の国内クラウドファンディング市場規模は新規プロジェクト支援ベースで前年度比127.5%増の1,700億円」(2018年12月3日)

事例④、⑥、⑧においては、ソーシャルレンディング業者の管理態勢について問題が認められることが明示的に指摘されており、また、これ以外の事例においても多かれ少なかれ同様の態勢整備上の問題が行政処分の遠因になっていたものと推測されるわけですが、各業者において増加したファンド財産の取扱高にふさわしい態勢の整備が追い付かず、その結果として日常的業務の的確な処理がおざなりになったことも一連の問題の発生に寄与したものと推測されます。

ソーシャルレンディング業界において生じた上記のような問題に対して当局等も手をこまねいてきたわけではありません。
次回のMEMOでは当局等の対応について見ていきたいと思います。

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