MEMORANDUM

ファンド法務NEWS第2回―ソーシャルレンディングにおける「匿名化・複数化」問題―②ソーシャルレンディングの匿名化・複数化の運用とは何か?

こんにちは。弁護士の後藤慎吾です。

今回のMEMOもソーシャルレンディングにおける「匿名化・複数化」の問題を取り上げます。
お題は「ソーシャルレンディングの匿名化・複数化の運用とは何か?」です。

もっとシンプルなスキームにできない?

前回のMEMOでご説明した通り、我が国のソーシャルレンディングは、ファンド運営業者が、①資金提供者との間で匿名組合契約を、②資金の借り手との間で金銭消費貸借契約をそれぞれ締結し、匿名組合契約に基づいて資金提供者から調達した資金を、金銭消費貸借契約に基づいて資金の借り手に融資する、というスキームをとっています。以下の図のイメージです。

このスキーム(以下「TK+ローンスキーム」といいます。)では、資金提供者が資金の借り手に対して融資を行うという経済的な実態を創出するために、ファンド運営業者が資金提供者と資金の借り手の間に契約の当事者として介在し、特に、匿名組合契約という投資契約が用いられている点で迂遠な法律構成になっています。例えば、以下の図のように、資金提供者が資金の借り手との間で直接に金銭消費貸借契約を締結して融資できればよりシンプルかつ経済実態に沿った法律構成といえます。

しかし、日本国内でこのスキーム(以下「直接ローンスキーム」といいます。)を採用することは現行法の規制状況の下では困難であるといわれています。その理由は貸金業法にあります。

「貸金業」とは

ここで、直接ローンスキームで資金提供者の行う資金の借り手への融資が貸金業法に規定する「貸金業」に該当するか、という点が問題となります。

おさらいですが、貸金業法第3条第1項は、

(登録)

第三条 貸金業を営もうとする者は、二以上の都道府県の区域内に営業所又は事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては内閣総理大臣の、一の都道府県の区域内にのみ営業所又は事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては当該営業所又は事務所の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない。

と規定しており、貸金業法第2条第1項は、

(定義)

第二条 この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うものをいう。ただし・・・

と規定しています。

直接ローンスキームにおいて、資金提供者が資金の借り手に対して行う融資は、「貸金業」の構成要素である「金銭の貸付け」そのものといえることから、「貸金業」のもう一つの構成要素である「業として行うもの」といえるかが問題となります。資金提供者が資金の借り手に対して行う融資が「業として行う」といえる場合には、資金提供者は「貸金業を営もうとする者」(貸金業法第3条)に該当し、貸金業の登録を受けなければソーシャルレンディングに参加できないことになってしまうからです。

貸金業の無登録営業については刑事罰があり(貸金業法第47条第2号)、「貸金業」の構成要素である「業として行う」の解釈に関する刑事判例が蓄積されてきました。そのうちのいくつかを以下に挙げてみますと・・・

貸金業等の取締に関する法律二条一項にいう「貸金業」とは、反覆継続の意思をもつて金銭の貸付又は金銭の貸借の媒介をする行為をすれば足り、必ずしも報酬若しくは利益を得る意思又はこれを得た事実を必要としないと解するを相当とする。

最判昭和29年11月24日刑集8巻11号1860号

貸金業等の取締に関する法律二条にいわゆる貸金業とは反覆継続の意思をもつて金銭の貸付又は金銭の貸借の媒介をする行為をすれば足り、必ずしもその貸付の相手が不特定多数の者であることを必要としないと解すべきことは当裁判所の判例に徴し明らかである・・・

最判昭和30年7月22日刑集9巻9号1962頁

貸金業の規制等に関する法律二条一項にいう「貸金業」とは、反覆継続の意思の下に金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介を行うものをいうのであり、所論のような営利を目的とし特別の設備を備えるなど一個の業態として行うことまで必要としないのであって、本件貸付け行為が同法一一条一項の貸金業を営むことに当たるとした原判断は、是認することができる。

最決平成8年12月24日集刑269号773頁

このように、最高裁判所は、反復継続の意思をもって金銭の貸付けを行えば「貸金業」に該当するとしており(また金融庁における法令適用事前確認手続(回答書)(平成21年7月6日)も参照)、資金提供者の内心的意思を「業として」の判断指標にしていることから、貸付行為がどのような場合に「貸金業」に該当するのかを明確に判断することが困難であるといわれています。その結果、ビジネスの現場においても、企業間で資金の貸付けを行う必要がある場合に「貸金業法リスク」が必要以上に意識され、萎縮的に作用する場面が見受けられます。

ソーシャルレンディングを運営する業者としては、自身のプラットフォーム上で資金提供者に資金の借り手に対して反復継続して融資を行ってもらうことを想定しているわけですから、直接ローンスキームを採用した場合には、資金提供者は「貸金業」を行う者として貸金業の登録を受けなければならない、との帰結を導かざるを得ないことになります。しかしながら、資金提供者が貸金業の登録を受けることを前提に直接ローンスキームを採用することが現実的ではないのは火を見るよりも明らかでしょう。

TK+ローンスキーム

そこで、①資金提供者がファンド運営業者に対して貸付事業を出資対象事業とする匿名組合出資を行うことと、②ファンド運営業者が①で払い込まれた出資金を元手に資金の借り手に対して貸付けを行うことを組み合わせることで、資金提供者の貸金業登録の問題(以下「資金提供者貸金業登録リスク」といいます。)を回避しようとしたのが、ソーシャルレンディングにおいて現在一般に採用されているTK(匿名組合)+ローンスキームです。

このように異なるスキームを採用することで、コペルニクス的転回ともいうべき興味深い現象が生じます。
つまり、資金提供者は、直接ローンスキームでは貸金業法の規制の対象者(「貸金業を営もうとする者」)として扱われるわけですが、TK+ローンスキームでは、むしろ、金商法で保護の対象となる「投資者」となるのです(この点は追って深掘りして説明することにします)。

ところで、このTK+ローンスキームに対しては、資金提供者貸金業登録リスクをクリアしつつ、資金提供者が資金の借り手に対して融資を行うという経済的な実態を創出することが目的であるだけに、このスキームを採用してもなお、資金提供者が資金の借り手に対して「金銭の貸付け」を行っていると実質的に評価できるのであり、資金提供者に対して貸金業法の規制が及ぶのではないか、という疑問があります。業者がソーシャルレンディング事業をビジネスとして運営する以上、資金提供者が「反復継続」して資金提供を行うことは所与のものとせざるを得ないので、ここでは「貸金業」の「業として」の該当性は認めざるを得ず、「金銭の貸付け」の解釈の問題になります。

この点について、金融庁は実務上の対応として以下の基準に従って判断していると説明しています(規制改革推進会議・第16回投資等ワーキング・グループ(平成30年2月27日)資料1-8(金融庁・御説明資料(融資型クラウドファンディングについて)(平成30年2月27日))。

融資型クラウドファンディングの投資家(資金の出し手)が、
① 特定の借り手への貸付けに必要な資金を供給し、
② 貸付けの実行判断を行っている場合には、
貸付行為を行っているものと評価(貸金業登録が必要)。

上記の金融庁の考え方に従えば、TK+ローンスキームにおいても、資金提供者が①の「特定の借り手への貸付けに必要な資金を供給」している事実は争いようがないので、資金提供者貸金業登録リスクを払拭するためには、資金提供者が②の「貸付けの実行判断を行ってい」ないといえることが求められます。

では、資金提供者は、TK+ローンスキームにおいて、ファンド運営者との間で匿名組合契約を締結し、匿名組合員の地位に立つわけですが、資金提供者は、このような地位に基づいて貸付けの実行判断を行うことができるのでしょうか?商法第536条は匿名組合員の出資や権利・義務について以下のように規定しています。

(匿名組合員の出資及び権利義務)

第五百三十六条 匿名組合員の出資は、営業者の財産に属する。
2 匿名組合員は、金銭その他の財産のみをその出資の目的とすることができる。
3 匿名組合員は、営業者の業務を執行し、又は営業者を代表することができない。
4 匿名組合員は、営業者の行為について、第三者に対して権利及び義務を有しない。

匿名組合の事業は、商法上は、営業者単独の事業であることが前提となっています。したがって、営業者が、匿名組合の事業を執行するものとし、匿名組合員は、営業者の業務を執行し、営業者を代表することはできないとされています(商法第536条第3項)。また、匿名組合員が出資した財産は、営業者の財産に帰属することになり(同条第1項)、この財産について匿名組合員が持分を有するわけではありません。ソーシャルレンディング事業において営業者(ファンド運営者)が資金の借り手に対して融資したことによって取得する貸付債権についても資金提供者は何らの法的権利を有しないことになります(同条第4項)。したがって、このような匿名組合員の「金は出すけど口は出さない」という商法の建付けのみから抽象的に判断した場合、匿名組合員たる資金提供者は、「貸付けの実行判断を行ってい」ない、とも考えられます。

しかし、ソーシャルレンディング事業においては、一般に、ファンド運営業者が見込み案件を発掘したうえでウェブサイト上で当該案件を告知するものであるため、資金提供者は、ファンド運営業者が提供した当該案件の情報を吟味・検討したうえで当該案件への資金提供の意思決定を行うことになります。そのような実態に鑑みれば、たとえ商法上の建付けが上記のものであるとしても、資金提供者は事実上「貸付けの実行判断を行ってい」ると評価しうるとする考えに合理性があるように思います。

匿名化・複数化

このような問題への対処の方策として、金融当局は、事業者の相談事例を踏まえ、実務レベルにおいて以下の考え方を示していました(上掲金融庁資料参照)。

実務運用上、投資家が貸付行為を行わない事業スキームか否かについて、実質的に判断。
その際、借り手の匿名化・複数化(※)がなされているかも考慮の一要素となり得る。
(※)借り手の匿名化・複数化(以下の両者を満たす場合)
・借り手を特定することができる情報が明示されないこと(匿名化)
・複数の借り手に対して資金を供給するスキームであること(複数化)

上記のように金融当局は匿名化・複数化を「考慮の一要素」としているものの、やはりこのような金融当局のガイダンスの影響は絶大であり、ソーシャルレンディングの実務では匿名化・複数化の運用がデファクトスタンダードになりました。

イメージは以下の図の通りです。

匿名化を実現するために、ファンド運営業者は資金提供者に対して資金の借り手を特定する情報を提供できないことから、借り手の会社名、住所、法人番号といった特定につながる情報を伏せて、例えばA社やB社という仮の名称で資金の借り手を示すといった運用が行われてきました。また、複数化のために、ファンド運営業者は、資金提供者から払い込みを受けた出資金を原資として融資する先を1社のみとすることができず、必ず複数社に貸し付ける必要があります。このような前提を置くことで、資金提供者としては、資金提供の判断を行う時点(及びそれ以降においても)資金の借り手が誰なのかがわからず、かつ、借り手自体も複数であることから資金提供者と個々の借り手の紐づけが希釈化された(言い換えれば、資金提供者Cの出資した資金は不特定多数の他の資金提供者の出資金と混然一体となったファンド財産を構成し、その結果、資金提供者Cの出資した資金はA社に貸し付けられたのかもしれないし、又は、B社に貸し付けられたのかもしれないけど、結局のところそれはよくわからないという状態になった)として、資金提供者は貸付けの実行判断を行っていないと評価しうるとの判断がなされたものと考えられます。

上記のような経緯でTK+ローンスキーム+匿名化・複数化の運用が定着したことによって、資金提供者貸金業登録リスクを事実上排除した形でソーシャルレンディング事業が行えることとなりました。しかしながら、かかる運用によって、投資における自己責任原則が妥当するための前提条件となる投資家への情報開示が制限的となることは否めず、金商法の目的である「投資者の保護」(同法第1条)が後退するのではないかとの批判もあったところです。次回のMEMOでは匿名化・複数化の運用がもたらした問題点について検討したいと思います。

 

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