MEMORANDUM

ファンド法務Q&A第1回-新人法務部員がファンド法務を担う上で持つべき視点としてどのようなものがありますか?

こんにちは。弁護士の後藤慎吾です。

前回のMEMOでは、この連載企画の趣旨などを述べるだけで終わってしまったので、実質初回のMEMOということになります。
どうぞよろしくお願いいたします。

ファンド法務Q&A第1回のお題は「新人法務部員がファンド法務を担う上で持つべき視点としてどのようなものがありますか?」です。

私は、ファンド運営業者の(営業部門の方などを含む)全役員・従業員向けのコンプライアンス研修の講師をすることが多いのですが、そこでは、まず冒頭に、今回のMEMOで読者の方にお伝えすることについてお話しするようにしています。ファンド実務を担われている皆様は、これからお伝えすることについて、感覚的には理解されていると思われるものの、言語化・意識化しておく必要があるのではないか、という問題意識があるためです。

ところで、私は、昨年から、ある大手IT企業の法務部からの依頼で法務教育プログラムの企画・運営の仕事をしています。このプログラムでは、私から月1回出題する企業法務に関する問題について、①数名の若手法務部員が答案を作成し、②私がそれについて添削を行ったうえで、③私が1時間程度のミーティングで①~②の過程で得た気づきなどを踏まえて法律文書の作成法や法的な物事の考え方(リーガルマインド)などについてレクチャーすることになっています。昨年末に第1期生が卒業して、今年は第2期生の方々を対象にしているのですが、このプログラムでも、本MEMOでお伝えすることを折に触れて話しています。その意味で、法務部員であれば有しておかなければならない基本的な視座ということであり、必ずしもファンド法務に限られた話ではありません

この条文、結局は同じことを定めている?

それでは本題に入りましょう。まずこの三つの条文を見てください(私の方で適宜編集しています)。

(禁止行為)
第三十八条 金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、・・・。
・・・
九 前各号に掲げるもののほか、投資者の保護に欠け、若しくは取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるものとして内閣府令で定める行為


(禁止行為)
第百十七条 法第三十八条第九号に規定する内閣府令で定める行為は、次に掲げる行為とする
一 次に掲げる書面の交付に関し、あらかじめ、顧客(・・・)に対して、法第三十七条の三第一項第三号から第七号までに掲げる事項(・・・)について顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明をすることなく、金融商品取引契約を締結する行為
イ 契約締結前交付書面
ロ ・・・

第三条 金融商品販売業者等は、金融商品の販売等を業として行おうとするときは、当該金融商品の販売等に係る金融商品の販売が行われるまでの間に、顧客に対し、次に掲げる事項(以下「重要事項」という。)について説明をしなければならない。
一 当該金融商品の販売について金利、通貨の価格、金融商品市場(金融商品取引法第二条第十四項に規定する金融商品市場をいう。以下この条において同じ。)における相場その他の指標に係る変動を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは、次に掲げる事項
イ 元本欠損が生ずるおそれがある旨
ロ 当該指標
ハ ロの指標に係る変動を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分
二 ・・・
2 前項の説明は、顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない。

ファンド法務についてある程度経験のある方であれば、上記の第38条、第117条及び第3条が、それぞれ、金商法金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「業府令」といいます。)及び金融商品の販売等に関する法律(以下「金販法」といいます。)の条文であることはわかりますよね。

以下では、わかりやすさのために細かなことは捨象して、かつ、金融商品取引業者にフォーカスして説明することにします。

金商法第38条第9号と業府令第117条第1項第1号イは、相まって、金融商品取引業者は、あらかじめ顧客に対して必要な説明をしないで金融商品取引契約を締結してはいけない、といっているので、裏返せば、金融商品取引業者は、金融商品取引契約の締結前に、顧客に対して一定の法定事項について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明をしなさい、ということを定めていることになります。これは、一般に、実質的説明義務とか広義の適合性の原則といわれるものです(拙著188頁~189頁参照)。

他方で、金販法第3条第1項及び第2項は、金融商品販売業者等は、金融商品の販売が行われるまでに、顧客に対し、重要事項について、顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明をしなさい、と定めています。

これらの規定を比較する際の前提情報ですが、金販法の「金融商品販売業者等」(同法第2条第3項)は金融商品取引業者を包含し、また、金販法の「金融商品の販売に係る契約」は金商法の「金融商品取引契約」(同法第34条)の多くを含む関係にあります。他方で、説明の対象となる事項を示す業府令第117条第1項第1号柱書の「法第三十七条の三第一項第三号から第七号までに掲げる事項」は、金販法第3条第1項柱書の「重要事項」を包含しています。そうすると、両者の規定の対象は重なり合っている部分が多いことがわかります。

何故わざわざ異なる法律で同じ事項について重複した内容を規定しているのでしょうか?

それは、法律には大きく分けて「公法」と「私法」の分類があることに起因しています。

公法と私法

公法」の概念についてはいろいろな考え方があるのですが、ここでは、国と私人(法人を含む個人)との関係や国自体(国の組織)を規律する法をいうとしましょう(以下では議論を簡略化するため公法の「国自体(国の組織)を規律する」という要素は捨象して説明します)。

これに対して「私法」とは、私人間の関係を規律する法をいいます。

以下の図は公法と私法のイメージを示したものです。

・・・この図を見てもなんのことやらという感じだと思いますので、具体的に説明していきましょう。公法の中で一般の方に馴染みの深いのは刑法でしょう。例えば刑法第235条は窃盗罪を規定しています。

(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

例えば、Aさんが日本国内でBさんの物を盗んだら、国は、この刑法第235条に基づいて、Aさんに対して、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金の範囲で刑罰権を有することになります。この条文はあくまで国の私人に対する刑罰権について規定しており、BさんがAさんに対してこの条文に基づいて刑罰権を有するわけではありません。というわけで、刑法は、国と私人との関係を規律するのであり(なので「公法」に該当する)、私人間の関係を規律するわけではない(なので「私法」ではない)と整理されるのです

それでは、Aさんが、その窃盗行為の後に、盗んだBさんの物を紛失してしまった場合、Bさんは、Aさんに対して、Aさんの窃盗・紛失によって被った損害の賠償を請求したい、と考えるはずですが、その場合に請求の法的根拠となる法律は民法です。民法第709条は以下のように規定しています。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

Aさんは、故意によってBさんの権利(所有権)を侵害し、それによってBさんに損害が生じているわけですから、Bさんは、この民法第709条に基づいて、Aさんに対して、Aさんの窃盗・紛失によって被った損害の賠償を請求することができるわけです。

というわけで、民法は、私人間の権利・義務(法律関係)の一般的なルールを規定した法律であり、私法の代表選手です。MEMOでは追って民法上の組合(任意組合ともいいます。)の説明をする時に民法自体の概括的な説明もしたいと思います。

ちなみに、民法は、大きく、人の財産や取引関係について定めた財産法(民法第1編(総則)、第2編(物権)及び第3編(債権))と、家族間の法律関係について定めた家族法(民法第4編(親族)及び第5編(相続))とに分類されます。このうちで、債権(人の他の人に対する請求権をいいます。)関係の規定について契約に関する規定を中心に見直すことを目的とした改正法が平成29年5月に成立しており、令和2年4月1日に施行される予定です。改正項目は200程度に及び、世紀の大改正といわれています。組合契約に関する規定についても見直しが行われており、MEMOでも取り上げる予定です。私が監修した、民法改正の範囲・理由や重要ポイントについてごく簡単に説明した記事が編集手帳というウェブサイトにアップされていますので、ご興味のある方はご参照ください(2020年に民法が改正!スタートアップが知っておくべき改正事項とは)。

金商法と金販法の条文に戻ります

上記の公法と私法に関する説明を前提に、金商法第38条第9号・業府令第117条第1項第1号と金販法第3条を見てみましょう。

まず、金商法第38条第9号・業府令第117条第1項第1号についてですが、金融商品取引業者がこの規定に違反するとどのような効果が生じるのでしょうか?

ファンド運営業者の皆様であれば直観的にお分かりになると思いますが、国にその金融商品取引業者に対する業務改善命令や業務停止命令などの行政処分に関する権限を生じさせることになるわけです(金商法第51条・第52条第1項第7号)。また、金商法第38条第9号・業府令第117条第1項第1号の違反との関係では罰則はないのですが、金商法の条項の違反は刑事罰の対象となることも多いです(金商法第8章)。その意味で、金商法は公法に分類することができます。なお、金商法を含む経済法や労働法などの社会法については、その規律内容を通じて私人間の関係が制約されることなどを理由に、私法的要素も混在しているとも説明されています。ただし、金商法第38条第9号・業府令第117条第1項第1号は、必要な説明を受けられなかった顧客(仮にCさんとしましょう。)が、金融商品取引業者(D社とします。)に対して、その被った損害の賠償を求める際に直接の法的根拠とすることはできません。Cさんは、D社に対して、金商法第38条第9号・業府令第117条第1項第1号に基づいて、 損害賠償請求できるわけではないのです。

では、Cさんが、必要な説明をしなかったD社に対して、被った損害の賠償を求める際の根拠となる法律の規定は何になるのでしょうか?

そうですね。ここで金販法が出てくるわけです。金販法第5条は以下のように規定しています。

(金融商品販売業者等の損害賠償責任)
第五条 金融商品販売業者等は、顧客に対し第三条の規定により重要事項について説明をしなければならない場合において当該重要事項について説明をしなかったとき、又は前条の規定に違反して断定的判断の提供等を行ったときは、これによって生じた当該顧客の損害を賠償する責めに任ずる。

したがって、Cさんは、D社に対して、金販法第3条及び第5条に基づいて、損害賠償請求を行うことができます。金販法は、金融商品販売業者等の顧客に対する義務と責任を定めており、私法に分類されることになるわけです(ちなみに、Cさんは、D社に対して、先述した民法第709条に基づいても損害賠償請求ができるのですが、そのことについては今後のMEMOでまた追ってご説明します。)。

では、金商法の規定は金融商品取引業者と顧客との間の権利・義務関係に影響することはないのか?

答えを先に述べてしまうと、影響することがありうる、となります。具体例を挙げて説明しましょう。例えば、金商法第40条は以下の通り規定しています。

(適合性の原則等)
第四十条 金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、その業務を行わなければならない
一 金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行つて投資者の保護に欠けることとなつており、又は欠けることとなるおそれがあること

この金商法第40条第1号は、金融商品取引業者等は、特定の顧客について、その属性をもとに判断して特定の金融商品取引行為との関係でそもそも勧誘行為を行ってはならない場合があることを示したものと一般に理解されており、広義の適合性の原則(実質的説明義務)と対比して、狭義の適合性の原則といわれています(拙著197頁~200頁参照)。そしてこの狭義の適合性の原則との関係では有名な最高裁判所の判例・最判平成17年7月14日民集59巻6号1323頁があります。以下はその抜粋です。

証券会社の担当者が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である。

最高裁は、金商法の前身である旧証券取引法下の適合性の原則が、私法である民法第709条の解釈準則となることを認めています。このように、金商法の規定の趣旨は、民法などの私法の規定を通じて、 私人間の法律関係に影響を及ぼすことがありうるのです。

このことからわかる通り、公法と私法との関係は相互排斥的な関係に立つわけではなく、私人間の法律関係を分析する際に公法の規定内容の理解が必要になることも多くあります。

逆に、私人間の法律関係(例えば契約の内容など)が金商法の規定の適用に影響を及ぼすこともありますが、この点については今後この連載のどこかのタイミングで説明することにしましょう。

さいごに

以上長々と論じてきましたが、今回は、金商法と金販法の規定を通じて、公法と私法の概念についてご説明しました。法律の分類としての公法と私法の考え方は、法学入門的な書籍には必ず記述がある基礎的な知識ではあるのですが、実は多くの学者が議論を重ねてきた難しい分野でもあります。したがって、今回ご説明した内容はその断片を切り取ったものにすぎません。ただ、両者の妥当する領域の違いに関する基本的な理解は法律実務を行っていくうえで必須のものだろうと思います。その意味で、新人法務部員がファンド法務(のみならず企業法務一般)を担う場合には、それが公法・私法のいずれの領域の問題なのか(言い換えれば、純粋に私法の話なのか、公法的要素(刑事罰や行政処分の可能性など)を含むのか、それとも双方が絡む問題なのか)という視点を意識して個々の法律問題に対処していただくとよいのだろう、と考えています

関連記事一覧